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平成13年11月2日(159号)
 名古屋大学の野依良治教授のノーベル化学賞受賞は、世界中がアフガニスタンへのアメリカ軍空爆のニュース一色のなかで、大きな花が咲いたように、日本人にとって、誇らしいできごとだった。たしか去年も同じようなノーベル化学賞を、筑波大学名誉教授の白川英樹さんが受賞されている。2年連続の快挙である。今回の野依良治教授の研究は「不省合成」という、自然界に存在する化学物質の特殊な性質の研究なんだそうだ。同じ成分なのに立体構造が鏡に映したように、物質には「右型」と「左型」の二つのタイプを持つものがある。野依さんは、その「右型」と「左型」のどちらかの構造を選択して作る方法を世界で初めて開発し、有用な物質だけを作ることを可能にした。それは、医薬品、農薬、香料などの生産に、ひろく応用され、さまざまなものの実用化に役立っているんだそうだ。この分野では、「世界のノヨリ」として誰もが一目置いていた。◆白川教授は、電気を通すプラスチックの研究だった。実験中の失敗から偶然発見された、というのは有名な話だ。白川さんは、飛騨高山の出身で、自然のなかで、昆虫や植物の採集に明け暮れた。習い事などはせず、豊かな自然の中で、自由にのびのびとすごした。帰ると、ガスなんかない時代なので、お風呂わかしの手伝いをさせられた。当時は、子供たちの手伝いは当り前だった。薪を使って火を起こす。それが密かな楽しみでもあった。新聞に食塩水をひたして燃やすと黄色い炎が出る、風呂場のまわりは、少年にとって「化学の実験場」だったのだ。あまり勉強しなかったが、理科はよくできた。そういった環境が、鋭い観察力を育み、ノーベル賞の受賞につながったに違いない。野依さんもやっぱり、まだ自然が十分残っていた神戸で、野山を駆け巡り、棒切れをふりまわし、崖を攀じ登ったりした少年時代をすごしている。相撲は栃錦のファンで、弟たちを相手に投げ飛ばし、技の研究に余念がなかった。野球は、阪神の熱狂的なファン。藤村富美男にあこがれた。グローブやバット、ボールなどは手作りで、ゲームも空き地での、三角ベースだった。ある時、化学会社の研究者だった父親に連れられて、商品発表会を見に行く。そのとき父親に、「ナイロンは水と空気と石炭で出来ているんだ」と説明され、びっくりしてしまった。当時はナイロンなんて珍しかったので、すっかり感激してしまったのだ。化学の道へ進もう、と密かに決意した。白川さんも、野依さんも、物がまったくなかった時代、遊ぶものは、みんな自分たちで作っていた。そういうエネルギーをずっと持ちつづけ、お二人とも、とうとう世界も驚く、「電気を通すプラスチック」、「物質の不省合成」の研究でノーベル賞を受賞したのだ。研究の原点は、思い切り遊んでいた豊かな日本の自然で培われた少年時代の自由な発想だった。野依さんは、「機械に助けられて生きている現代の人たちの、体力、気力の衰退を警告し、人間力の回復」を主張する。白川さん、野依さんのノーベル賞受賞には、 世紀の日本人はどうあるべきか、何か貴重なヒントを与えられたような気がするのだ。


平成13年11月16日(160号)
平成13年10月6日 野菊
「率直に言って田中さんは個性豊かな方だ。素晴らしい特質、感性というか、直感力を持っている」。福田康夫官房長官は11日、千葉市内で開いたタウンミーティングで、外務省人事課長の更迭騒動など、このところ問題が相次ぐ田中真紀子外相を褒めちぎった。こんなニュースが12日、かけめぐった。さらに、福田長官は「政治家であれだけの個性を持っている人は少ない。ご自身も大事にしないといけないし、我々も大事にしないといけない」と強調し、「あの方が個性を十分発揮されるのはいいこと」と持ち上げた、という。皮肉もこもっているのだが、このところの田中真紀子外務大臣の行動は、日本中に、おおいに話題を提供している。与党自民党の中では、外務大臣更迭論も急浮上している。評論家の塩田丸男さんは、「国民的人気を背景にした外務大臣だから切れないというのは、日本の民主主義の限界。すぐに代えるべきだ」と主張。ある女性評論家は、「田中さんは歴代の外務大臣と比べて、特に劣っているとは思えない。だいたいああいう世界は、男社会の特殊な連帯の中で何かが行なわれているところ。女は余計なことをいうな、というそんな中で、田中さんはよくやっている。やめることはない」。賛否両論、まあ、にぎやかなのである。一連のすっぽかし事件も、若い主婦たちには理解されてる。「主婦としての仕事があったので」、と発言したことも、ああいうところで、男が言わないことを、平気で口にしている真紀子さんを、女性はほとんど応援している。これでは、自民党内の「抵抗勢力」もどうすることもできない。そもそも、自民党にしても参議院選挙前の、あの絶望的な不人気を救ったのは、ほかでもない、田中真紀子さんなのだから、この状態で、首を切ったら、また、奈落の底を見ることになる。切るに切れない、のである。それよりも、こういったニュースの影で、例の一連の外務省不祥事の話題が薄れてきているほうが、重大なのだ。外務省のシステムが、あの機密費横領事件を、この真紀子さんの言動を利用して、そらしてしまおうとしているかのように、真紀子さん周辺のリークが意図的である。真紀子さんに、「指輪泥棒」よばわりされた職員はひどいと憤慨したそうだが、これまで外務省内でやって来た機密費横領を、国民は誰も、「税金大泥棒」と、思っていて、怒りはまったくおさまっていない。外務省のハイヤー代をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた元経済局総務参事官室課長補佐、小林祐武。旅費の水増し請求で5億円余の官房機密費を詐取したとして元要人外国訪問支援室長、松尾克俊。ホテル代を水増し請求して4億2000万円余を詐取したとされる元欧州局西欧1課課長補佐、浅川明男。事件解明はこれで終ったとは思えない。だから、まだ奥のほうにいる、外務省の魑魅魍魎たちが、田中外務大臣を早く何とか追い出そうと蠢いているようにしか、見えないのである。
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