平成13年6月1日(149号)
久しぶりに大相撲に興奮した。満員御礼の垂れ幕がテレビ中継の画面から消えてどのくらいになるのだろう。砂かぶりや、マス席は、ほとんど接待用に企業が買い占めていた。景気が悪くなると、このあたりの出費は真先に差し控えられる。館内の熱気には相撲独特のものがあった。それが、このところ、まったく消えてしまっていた。原因は、最近の相撲の内容にもある。ほとんど肥満体。学生相撲出身と外国人が幕内をしめてしまう。これは、と思う力士が、すぐ怪我をする。そのくせ土俵のねばりはない。相撲にハングリー精神が無くなったら、大人の肥満児たちのはだか踊りである。それを救ったのは、五月場所、千秋楽の貴乃花・武蔵丸の一番、いや二番だった。今場所も、始まると、盛り上がりに欠け、内容は低調。NHKの相撲中継が、国会中継よりも視聴率が低いという、珍現象が起きる。小泉さんと真紀子さんの出現で、国会の方が面白いというのだ。相撲中継のため国会中継を終わります、と画面が変わったとたんNHKには抗議が殺到した。そんな屈辱を受けながら、大相撲5月場所は 日まですすむ。ドラマの幕開けは、貴乃花が、作った。 日目、武双山との一戦で、右膝亜脱臼、の怪我をしてしまった。このところ、貴乃花はまったく優勝戦線からはずれ、私生活でも、双子山親方夫婦の別居騒動、母親の「りんとして」出版、「おにいちゃん」の相撲界引退・タレント宣言、などの影に隠れてあまり目立たなかった。ところが、今場所はいつになく好調だった。体調もよさそう。取りこぼしもなく、 日間勝ちっぱなし、武蔵丸はすでに2敗、追う千代大海も怪我あけで、復調したとはいえ長い間、土俵から遠ざかっている。今場所は、貴乃花だろうと、大方の相撲ファンはそう思ったに違いない。ところが、である。千秋楽、武蔵丸との一戦に、土俵に上がる貴乃花をみて、館内は、どよめきから同情のためいきに覆われた。足の傷がそんなかんたんではないとが分かるほど、引きずりながら、土俵へ。本割りは、あっけなく、武蔵丸へ軍配があがる。決定戦は、だれの目にも、アメリカ人横綱・武蔵丸に9分9厘、分があると思われた。このあたりから、視聴率はぐんぐんあがる。日本中が、貴乃花に何とか勝たせたいという念が通じたのか、左上手投げ、武蔵丸が土俵に沈む。「痛みに耐えて、よく頑張った。感動した。おめでとう」という、小泉さんの言葉とともに、相撲の歴史に残る大一番になった。「大相撲復活」、時津風理事長は貴乃花の獅子奮迅ぶりに頭が下がる思いだったろう。ただ、ここで、小業を駆使せず堂々と真っ向から勝負を挑んだ武蔵丸のフェアーな「武士道」精神にも、声援を送ろう。オリンピック柔道で、怪我をした山下泰裕選手の左足をあえて攻撃せず、寝業に破れたエジプトのラシュワン選手の「武人の心」を思い出す。本当の「勝」というのは、そういうことなのだ。そんな日本伝統の「もののふ」のあるべき姿 を、日本で生まれた柔道・相撲の世界で、皮肉にも二人の外国人に教えられたのである。 |
平成13年5月18日(148号)
アメリカ大リーグのイチローと、外務大臣田中真紀子さんの活躍で、アメリカの野球と日本の政治に、このところ目が離せなくなった。イチローのバッテイングが本場で通用するだろうか、真紀子さんのパワーは、国民が思ってるように、本当に政治を変える原動力になれるんだろうか。こんな心配はこの二人には、まったく当てはまらなかった。イチローのあの独特のしなるようなバッティングは、大リーグに旋風を巻き起こしている。日本のプロ野球は、イチローの一振り一振りに、完璧に打ち沈められてしまった。巨人戦の視聴率は例年より低い。あまり日本のプロ野球が話題にならない。阪神からも、宇宙人・新庄が、バット一つでアメリカに渡り、これが思いがけずアメリカで、結構、調子がいいのだ。なんだか、少年にかえったように、大リーグに挑戦した日本のプロ野球選手は、のびのびと、プレイを楽しんでいる。こうなると、伝統の、巨人・阪神戦、野村・長嶋宿命の対決なんかどこかに吹っ飛んでしまう。ま、野球というのは、所詮、野っぱらで、のびのびと遊ぶ、アメリカの子供たちのスポーツだった、のである。■「果てしなき闘い、壮絶バトル」。スポーツ紙に踊るプロレスの見出しのようだが、違う。田中真紀子外務大臣と、外務省の幹部との激突を、マスコミが揶揄しているフレーズなのである。大臣室に、世界地図もなければ時差のわかる時計もない、と一喝したら、秘書官がとうとう心労でダウンしてしまった。それ以前、機密費横領事件では、会計課長が入院した、と報道されたことがあった。新任の田中外務大臣は、会計課長の入院は、実は仮病だった、と記者会見でぶちまけ、国民の前に明らかにしてしまった。いろいろと、人事に口をはさみ、川島事務次官など幹部たちに、「法律を知ってるんですか」と、恫喝されたので、怒った真紀子さんが、ばらしてしまったのだ。多分、記者たちには、周知の事実だったのだが、なれ合って、このことは誰も書かない。真紀子大臣は、「外務省は伏魔殿である」と、外務省幹部との対決を宣言した。これだけでも、十分なデビューである。あのとんでもない機密費問題が表に出たのに、どうなっているのか、国民にはさっぱりあきらかにされない。省内では、隠蔽工作が行われているのだが、前外務大臣は知らん振り。そこに、外務官僚たちにとっては、まさかと思った小泉政権の誕生。御しやすかった最大派閥の息のかかった外務大臣は、来ない。あの「越後の魔女」がやって来たのである。外務省は、戦々恐々と、新大臣の動向を、息をひそめて、見守っている。本場の大リーグでは、右に左に打ち分ける、「東洋のバッティングの魔術師」にかき回されている。最近の、大リーグと、日本の政治事情は、どうやら茶の間で楽しむもののようである。 |